2023年のワールド・フェア・オブ・マネー、ピッツバーグで開催

ワールド・フェア・オブ・マネーが行われた街、ピッツバーグ  Photo: EEJCC via Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0.
ワールド・フェア・オブ・マネーが行われた街、ピッツバーグ  Photo: EEJCC via Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0.
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ピッツバーグのデヴィッド·L·ローレンス·コンベンション·センターは、国際的なコインショーの主催者なら誰もが夢見る会場でしょう。セキュリティスタッフが厳重な警戒体制を敷く、 この超モダンなイベントホールは、ピッツバーグの中心地にあります。 

センターから5分程の場所にあるウェスティンホテルのロビーには、造幣局や卸売の関係者が詰めかけていました。周辺にはモダンなホテルがたくさんあり、快適に過ごすのに必要なものはすべて揃っています。グルメも印象に残りました!バーから高級レストランまで、ピッツバーグは料理でも有名なのです!さらに、ペンシルベニア貨幣協会の会員たちのフレンドリーさときたら、何かの賞をあげたくなるほどでした。ピッツバーグは、ワールド·フェア·オブ·マネーのために世界中からやってくる出展者にとって、理想的な出会いの場であることは明らかです。

米国とヨーロッパのコインショーのちょっとした違い

フェアは2023年8月7日(月)から12日(土)まで、何と合計6日(!)。その期間、世界各国から400以上の出展者が商品を展示しました。ヨーロッパの基準からすると、これはとても長い期間です。ヨーロッパのコインショーは長くても3日間、ほとんどは1日で終わります。

この違いは、何が理由なのでしょうか。ヨーロッパのコインショーは、ごく一部のイベントを除けば、通常は民間企業が運営しています。そうした企業は利益を上げたいので、特に重要な顧客である出展者の利益に最も注意を払います。ということは、企業にとっての最良のシナリオは、短時間に大勢の来場者がブースの前を通り過ぎることです。もちろん、開催期間中どの時点においても客がゼロになるようなことは避けたいところです。

一方、アメリカのコインショーの多くは、いくつものコイン協会が垣根を越えて行う会合から発展したものであり、その結果、今でも理事会、講演会、社交イベントが中心です。これは特にアメリカン·ヌミスマティック·アソシエーション(ANA)にも当てはまります。数多くの小規模な団体を統括するANAがコインショーを併催することは、コレクターにとって魅力的であり、とても重要なプラス要素になります。しかし、それはこのイベント開催の決定的な要因ではありません。当然、イベントの高額な費用はコインショーの収入で賄われています。ですから理論上はANA会員しか出展できないわけですが、実際は誰でもその場ですぐに1年間会員に入会することが可能です。

そうした背景のもと、毎年、講演会や理事会などの主催者はイベントの盛況を願い、一方では、約400人のコインディーラーが会場に机を並べて客が訪れるのを待ち構えるというお馴染みの光景が繰り広げられるわけです。

とはいえ、ディーラーの大半は、コレクター相手というより、むしろ同業者間での取引で成果を上げており、その利益に満足しています。火曜か水曜には早くも大きな取引が成立したという話が何度も耳に入ってきました。その結果、多忙を極めるCEOのなかには、木曜日の夕方には一足早くワールド·フェア·オブ·マネーを引き揚げた人もいたほどです。

増えてきた古代のコインと世界のコイン

古代のコインと世界のコインのセクションには、アメリカ鋳造ではない、あらゆるコインが含まれています。ワールド·フェア·オブ·マネーにおいて、この分野の役割はどちらかといえばかねてから小さいものでした。結局のところ、ANAの会員の大半は依然としてアメリカのコインを収集しているからです。にも関わらず、このセクションは毎年拡大しているようです。また、「コイン全般」のエリアでも、ヨーロッパやアジアのコインの出品が増えてきました。近年アメリカ人顧客の間で、アメリカ以外のコインへの関心がかなり高まっているようです。

もちろん、アメリカのコレクターの収集対象は主にアメリカのコインですが、古代のコインやメキシコ、南米や現代のコインなどにも関心があります。特に地金型コインの需要は高くなっています。結局のところ、アメリカでは、年金制度がヨーロッパとだいぶ異なっており、多くのことが自らの意思に任されているため、金や収集品に投資しようという意欲が旺盛なのです。

つまり、欧州のディーラーにとっても米国市場は収益性が高いのです。一方、アジアのディーラーはごく僅かです。アメリカのディーラーの多くは、ワールド·フェア·オブ·マネーを利用して在庫を補充します。その結果、アメリカのディーラーのブースでヨーロッパのコインを見かけることも多いです。ですから、商品を買ってもらったドイツ人の同僚が、その代金のアメリカのコインを見せ、「ほら、これで晩御飯を食べに行こうよ」と冗談を言ったとしても、意外なことではありません。

造幣局の出展エリアの設置

20~30年前、ANAは当時バーゼルで開催されていたワールド·マネー·フェア(WMF)の強力なライバルでした。どちらのイベントも、現代の貨幣収集の世界における最も重要なプラットフォームになることを目指していました。ところがWMFがベルリンに移ったことで、状況はヨーロッパのイベントにとって有利に変化します。各国の造幣局はベルリンでの出展を決め、ワールド·フェア·オブ·マネーに出展する造幣局の数は、長い間減少が続くことになりました。主催者側は参加造幣局を増やそうと、何年間も努力してきましたが、2022年にいたったはアメリカ合衆国造幣局と並んでブースを構えたのは、カナダ王室造幣局とポブジョイミントだけという不名誉なほどの低水準でした。

2023年は、転機の年になったかもしれません。造幣局専用の小さなエリアが設けられたのです。実際、英国王立造幣局、バミューダ、中国、ポーランド、バチカン市国の造幣局のほか、ゲルマニア造幣局のような民間企業もブースを構えていました。さらにANAは、権威あるコイン·オブ·ザ·イヤー(COTY)賞の授賞式を、ワールド·フェア·オブ·マネーに復活させることに成功しました。

隣のウェスティンホテルのロビーには、さらに多くの造幣局や国際取引を行う卸売業者が集っていました。しかし実際にコインショーに足を運んでいたのは数社だけです。この状況が常態化していることは望ましいことではありません。なぜなら、裕福な大企業が、自らは貢献することなく、小規模なコレクターやコインディーラーが資金を提供して運営するこのイベントを利用しているからです。生物の授業なら、これを「寄生」と呼ぶことでしょう。

このことに気づいている関係者は、どちらの側にもほとんどいません。このような状況は変えた方が良いと思います。私はここに集う多くの人を良く知っていますが、寄生虫のような振る舞いが平気な人はほとんどいないはずです。言い換えれば、現在便乗しているだけの人たちが、この市場を可能なかぎり魅力的なものにするために貢献できることは何なのか、主催者は可能なかぎり考えるべきだということです。

アメリカ合衆国造幣局

アメリカ合衆国造幣局は、ここでは普段の事業と全く違った役割を果たしています。何十年間もフェアに出展を続け、このイベントでは常に最大のブースを構えています。今年は、ヴェントリス·ギブソン造幣局長とクリスティ·マクナリー副造幣局長が出席していました。しかも、見学のためだけではありません。連邦政府高官という肩書を持つヴェントリス·ギブソン局長は、ブースの一番前に小さなテーブルを用意して座り、そこで証明書にサインをしたり、個々のコレクターの悩みに耳を傾けたりしていました。ギブソン局長にとっては、コレクターの気持ちを直接知ることができる絶好の機会なのです。

ではここで、アメリカ合衆国造幣局が、若い世代を貨幣収集の世界に引き込むために、おそらく世界最高といえるプログラムを携えていることについて簡単に紹介しておきます。造幣局のウェブサイトでは、子ども向けのゲームや情報、教師向けのリソースを提供しています。今回のピッツバーグのフェアでも、造幣局のブースを訪れた人たちは、子どもや孫のために、貨幣をテーマにした塗り絵やその他のグッズを手にして帰っていました。

昨年のローズモントと比較して

ピッツバーグで開催されたANAは、素晴らしいコインショーの要素すべてを備えていました。それなのに、なぜシカゴのローズモント·コンヴェンション·センターを推す人が多いのか、私もその理由がわかった気がします。

これは実務的な問題になります。最初から説明しますと、2023年は、私たちコインズ·ウィークリーが初めてワールド·フェア·オブ·マネーにブースを開設する年でした。そのために私たちは、本気で準備に取り組んできました。ブースを彩る美しい飾りをつくり、予測が難しい税関手続きを避けるために、2,500部の『コインズ·ウィークリー』特別号をアメリカで印刷しました。

ところが出発の数日前、誰も予想しなかった問題が発生しました。2,500部を驚くほどの早い納期で、しかもごく限られた時間内に納品するよう要請があったのです。この要請はANAからではなく、コンヴェンション·センターからのもので、印刷会社が期限に間に合わず、特別号を指定の納期以外に納入するのであれば、約1,000ドルの追加費用を請求するというのです。私たちは当初、フェア期間中に特別号を納入する予定でしたが、それができなくなりました。自分で抱えて運ぶことができる量以上のものをブースに持ち込むことが禁止されていたからです。

このような要請が出されたのは、労働組合と関係があります。ピッツバーグでは、歴史的な理由から労働組合が大きな力を握っています。私たちはこの問題を、ANAの新会長であり、ペンシルベニア貨幣協会の現会長でもあるトーマス·ウラム(Thomas Uram)氏の協力のおかげで、現実的でありながら型破りな方法で解決することができました。(本当にありがとうございました!)このことがあって、同僚たちが「シカゴでは組合に関する問題はない」と言っていた意味がわかりました。

しかし、また別の問題が発生しました。今度は飛行機での移動です。ピッツバーグは素晴らしい都市ですが、空港が狭いので、就航している航空会社はあまり多くありません。外国からピッツバーグに来る人のほとんどは、アメリカのどこかで飛行機を乗り換える必要があります。そのため多くのコインディーラーが、コインショーの行き帰りに大きなトラブルに遭遇しました。暴風雨により、いくつかのフライトがキャンセルされたのです。このような状況は私たちをヤキモキさせましたが、問題はすでにヨーロッパで始まっていました。同僚の乗り継ぎ便がキャンセルになり、代わりの便でピッツバーグに到着できるのは木曜日の午後になると聞き、私たちは彼にとってのベストは家にいることだと判断しました。そのため、私たちのブースには、用意していた美しい飾り付けを施すことができませんでした。

現在、その同僚は、来年8月6日から12日までシカゴのローズモントで開催される次回のワールド·フェア·オブ·マネーを心待ちにしています。ローズモントなら、自分の移動も資料の移動も、もっと楽になるでしょう。ただ、私個人はその会場があまり好きではありません。まあ、何もかも自分の思いどおりになることなどないことは、わかってはいますけどね。