1879年7月3日、アメリカ合衆国元大統領、ユリシーズ·S·グラント氏が日本を訪れました。彼は8年間の大統領任期を終えてから世界周遊の旅に出、私人として来日したのです。彼は投資に成功し、この旅行に必要な25,000ドルを入手したと言われています。グラント元大統領(グラント将軍とも呼ばれる、南北戦争の英雄)は同時に、アメリカ合衆国の非公式の大使として旅行していました。南北戦争終結後、統一したばかりの国家として、国際社会参入の意思を世界に示す意図があったのです。
日本滞在
グラント将軍は、大英帝国のヴィクトリア女王はじめ、ロシア皇帝アレクサンドルII世、教皇レオXIII世、プロイセン王国首相およびドイツ帝国宰相オットー·フォン·ビスマルク、タイの国王チュラロンコーン(ラーマ5世の通称)など、この時代の重要な君主·支配者たちを表敬訪問しました。そして彼はもちろん、2か月半にわたる日本滞在の間に明治天皇にも謁見したのです。
日本は当時、歴史学者が『明治維新』と呼ぶ大きな変革の最中でした。戊辰戦争で伝統勢力である旧幕府軍に新政府軍が勝利してから、まだ10年ほどしか経っていなかったのです。新しい日本にとってアメリカ合衆国は興味深い商取引の相手であり、潜在的な同盟国でした。そのため、合衆国元大統領は最大の栄誉を以て歓迎されました。グラント将軍が来日した翌日の7月4日には、もう首脳会談が行われました。元大統領とまだ若い明治天皇は、地政学と戦略について意見交換したとのことです。
それからグラント元大統領は、横浜、長崎、東京各地、日光に足を延ばしました。彼には最上級のホテルが提供され、彼を歓迎するためのパレードも開催されました。彼は戦友に以下のように書き送っています。『私の全旅行中、日本訪問が一番喜ばしいものでした。… 私の受けた歓迎と歓待は、想像をはるかに超えた見た事もない豪奢なものだったのです。』
外交上の贈り物
自国に戻ってからユリシーズ·S·グラントは明治天皇に、彼の馬飼育場から賞を受賞した雄馬を送りました。天皇陛下は返礼として55枚の高価な貨幣を送られ、そのうち25枚は現在ワシントンの国立コインコレクションに保管されています。エレン·ファインシュタインがこの貴重な贈り物の中から何点か選び、コイン常設展に展示しています。国立コインコレクションの蒐集品が約160万点あり、そのうち展示されているのが約250点しかないことを考慮すれば、この貨幣にどれほど稀少価値があるかご理解いただけるでしょう。
国立アメリカ歴史博物館に展示されているコインについての詳細は、下記の国立コインコレクション(National Numismatic Collection)ウェブサイトをご参照ください。