ダニエル・バウムバッハ(ミハウ・スクビシュ訳)
近年、2件の大規模な盗難事件がドイツの博物館を震撼させました。2件とも同じ犯罪組織に起因するもので、その大胆な犯罪行為は、ドイツで博物館のセキュリティについての議論を勃発させるきっかけとなりました。
ベルリン、2017年3月27日
一件目の盗難は、世界中で報じられることになりました。安全装置の掛けられていない窓を使って強盗の男性たちは、有名なムゼウムスインゼル(博物館島)のボーデ博物館に侵入しました。彼らの目的は、カナダの「ビック・メープル・リーフ(Big Maple Leaf、大きなカエデの葉)」大金貨でした。2007年当時、世界で最も大きかったこの金貨は100キロの純金からできていました。犯人は斧でショーケースを打ち砕き、ロープを使って博物館の隣を走っている鉄道路線まで金貨をおろしました。そこからは手押し車で路線を越えて、逃走用車両まで運びました。この犯行は一人の警備員の協力のもとで成功しました。
大規模の捜査の末、警察は犯人の立証に成功しました。4人の被告人のうち3人が禁固刑を科せられました。具体的には、犯罪組織の一味である強盗の2人は4年6ヶ月、警備員の共犯者は3年4ヶ月の禁固刑でした。この犯罪組織に属する4人目の被告人に対しては、無罪の判決が下されました。被告人全員が20歳以下だったので、裁判所は非常に寛大な少年刑法に基づいて判定を下したのです。
金貨の方は、行方不明のままです。売りにくい理由と金貨の物質的な価値の高さから犯罪組織は金貨をのちに簡易に転売できるよう、おそらくノコギリでひいた上で溶解させたと考えられています。当時のこのコインの物質的価値は420万ユーロ(おおよそ5億4676万円)でした。
ドレスデン、2019年11月25日
次の事件は、僅か8ヶ月後に発生しました。今回の目的は無数の文化財を保管し、ドイツの最も知名度の高い観光スポットとなっているドレスデン城の有名な緑の丸天井でした。早朝に犯人の一人がお城の周辺において停電を起こした間、残りの二人の犯人は窓の格子をノコギリでひき、斧でショーケースを破り、そしてその中からザクセン選帝侯保有の歴史的な宝石を盗難しました。犯行は僅か8分でなされました。
犯行の残忍さと迅速さは直ちにベルリンの事件を連想させますが、この盗難も同一の犯罪組織による犯行であることが明らかになったのは、長い捜査と警察のガサ入れの後でした。さらに悪いことに、犯人の少なくとも一人はベルリンと同一の犯人のようです。彼はベルリンの襲撃の罪で裁判にかけられていましたが、当時はまだ逃亡中でした。しかも、襲撃の翌日にはバイエルン州で別の強盗事件で裁判を受けていたのです。
現時点で犯人とされている人たちはまだ裁判を受けている途中です。ベルリン事件の裁判のように、犯罪組織は一流の弁護士を利用して裁判を長引かせているのです。そして今回も略奪品は行方不明です。盗まれたのは計り知れない歴史的価値を持ち、合計で4800ダイヤモンドを含む18世紀の高カラットの宝飾品21個です。しかし今回もその物質的価値が高いので、これらのユニークな歴史的な品々が部分的に取り外され、研磨され、そしてその部品の物質的な価値で売られたと危惧されています。当品々の保険金額は11380万ユーロ(おおよそ148億1496万円)です。
結果
この犯罪組織が強盗・麻薬取引・武器取引・殺人等、あらゆる犯罪行為で知られていましたが、文化施設に対する今回の大規模な犯行で確実にドイツの政治と警察の注目を集めたので、現在ではそのクランに対して全国規模で整えられた行動がとられています。
一方、博物館界では、博物館のセキュリティが議論の的となっています。どちらの盗難現場も国内の最も重要な博物館であったにもかかわらず、セキュリティ対策は明らかに不十分であったことが警察捜査で明確になりました。よくあることですが、問題は財源にあります。最新のセキュリティシステムや防弾ガラスのショーケースは非常に高いのに対して、博物館(小さな博物館だと尚更ですが)には必要な資金がありません。このような残忍な侵入を、今後もいかに効率的に防ぐかという問題は容易には解決できません。