10進法への変化によって、人々の言葉や考え方も変わっていった。良くも悪くも、かつての貨幣制度の古い言葉の多くは、現代の英語「Modern English」にはもう存在しないのである。たとえば、2シリングは「フローリン(florin)」、5シリングは「クラウン(crown)」と呼ばれ、シリングの俗語である「ボブ(bob)」は使われなくなった。同様に、昔の銅貨6ペンスに対する俗語である「タンナー(tanner)」もなくなってしまった。10進法が公然と導入される以前は、3ペニーに対する俗語である「スルーペンス(thruppence)」や「スルーペニービット(thruppenny bit)」、1ペニー未満の小銭の「ハーフ・ペニー(ha’penny)」と「ファージング(farthing)」などは、ほとんど使われていなかったのである。ありがたいことに、かつてポンドの人気だった俗称「クィッド(quid)」という言葉は、今日でも普通に使われている。
ポンドの価値は、それで購入できる商品やサービスの価格によって、異なった形で理解されていた。10進法の導入直前には、2シリングで1ガロンのガソリン、1シリングでビール1杯、数ペニーでチューインガム1箱が買えた。1963年9月、父と母の結婚式の写真アルバムは、11ポンドと11シリング(£11/11や£11-11と記載)だった。父は1950年代後半、「マーチャント・ネイビー」という商船隊で月に13ポンド12シリング6ペニー(£13/12/6や£13-12-6)稼いでいたと記憶している。しかし、ポンドが10進法になってからは、女性用のストッキングが94ペンス、子どもの本が29ペンスになった。もちろん、ポンドの価値は変わらなくても、ペンスと旧シリングや旧ペニーとでは、実際の購買力が違うからである。英国には、引き続きポンドがあるが、その通貨価値は、別の論理で新しい硬貨で表示されたのである。つまり、「12」という数字に代わって、「10」という数字が、通貨の基数として使われるようになったのである。
本シリーズは、CoinsWeeklyに以前掲載された記事を日本人の読者様向けに修正したものです。英語の原文はこちらでご覧いただけます。
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