コインの価格は、希少性と保存状態によってのみ決定されるものではありません。その他にも価格を上下させる要素があります。この記事が、よく見られる要素を見分け、オークションカタログに出てくる用語を理解し、そしてロットの価格が妥当なものであるかどうかを、ご自身で識別できるようになるためのガイドになれば幸いです。記事の構成はそれらの要素が生じうる順に沿って、すなわち鋳造工程前、その途中、あるいは出来上がった後コインの使用・掃除・天候等の外的要因の順番で書かれています。
1. 鋳造前:硬貨地板
まずは、コインの鋳造に用いられる金属片に生じうる要素を見ましょう。その金属片は硬貨地板や鋳貨板などと呼ばれています。
1.1 硬貨地板不備
硬貨地板不備とは、コインの鋳造前に、つまり硬貨地板の製造工程において生じた汚れ・破傷などを指します。その中には凸凹、刻み目、金属の汚れなどが含まれています。
硬貨地板不備は価格を減少させます。ただし、機械によって鋳造される現代のコインの場合は、それらの不備がほとんど生じないがゆえに、価格を上昇させる可能性もあります。
1.2 大小の硬貨地板
オークションカタログではたまに、硬貨地板が大きい、あるいは小さいという注釈が見られます。硬貨地板の小さいコインは、全体的に鋳型より小さいため、模様の一部が欠けます。反対に、硬貨地板の大きいコインは刻印のない場所が余ります。硬貨地板が小さい場合は価格が減少、大きい場合は上昇する傾向にあります。
1.3 影打ち
影打ち、または重ね打ちは特に古代及び中世のコインで見られます。当時は、未使用の新しい硬貨地板の代わりに、古いコインが鋳造の素材に使われることがありました。なぜなら、新しい硬貨地板を手に入れることが時として容易ではなかったからです。影打ちが特によく見られるのは、一時しのぎのために作られた造幣局や軍事造幣局のコインです。影打ちを使えば、費用と手間を大量にかけずに新たな模様のコインを鋳造することができたのです。その際、影打ちされた古い模様は多くの場合見て取れます。そのような影打ちは価格を減少させるどころか、場合によってはその歴史的背景による面白さがゆえに価格を上昇させることがあります。
2. 鋳造工程
2.1 二度打ち
何千年にもわたりコインは、上下異なる鋳型に挟まれた硬貨地板を槌で打つという工程で鋳造されていました。最初の一打ちが十分力強く打たれなかった場合は、模様がはっきり刻印されなかったので、もう一度打つ必要がありました。また、多くのコインの場合は何度も打つことが最初から想定されていました。その際、鋳型あるいは硬貨地板の位置が多少ズレてしまったら、模様が影のように重複するので、簡単に見て取れます。この現象は二度打ちと呼ばれています。刻印をかなり損なう二度打ちは価格を減少させます。
2.2 刻印ずれコイン
鋳型が硬貨地板に対して正常な位置にない場合は、刻印ずれコインができます。硬貨地板の一部が空いてしまう一方で、刻印の一部が欠けてしまいます。小刻印ずれと中刻印ずれは、コインが機械的に鋳造されるようになるまで一般的だったので、鋳型が中心で、正常な位置に置かれていることは価格を上昇させる効果があります。それを表すために、オークションカタログで「完全中心刻印(fully centred)」という言葉が使われることがあります。ただし、機械的に鋳造されるコインの場合は、大刻印ずれのコインが流通することが極めて珍しいので、エラーコインとして価格が上昇することが多いです。
2.3 弱打ち
弱打ちとは、鋳造工程が正常に行われなかったために模様の刻印が損なわれていることを指しています。その中には、人間か機械かを問わず、十分な力がかけられなかったことによって模様がコインに薄くあるいは部分的にのみ刻印された場合が含まれています。しかし、弱打ちは鋳型にも起因し得ます。なぜなら、浮彫が高すぎる場合、両方の鋳型を満たすための金属が足りないことがあるからです。
2.4 ヘゲエラー
硬貨地板が製造工程中に正常な熱を与えられなかった時は、もろくなり、鋳造工程中に剥がれることがあり得ます。この現象はヘゲエラーと呼ばれています。ヘゲエラーは多くの場合、表面裏面ともに生じ、価格を減少させます。
2.5 鋳型の亀裂
鋳型にも、鋳造工程の不備や消耗などによる亀裂などが生じ得ます。そのような壊れている部分は、コインでも見て取れます。多くの場合、同種類のコインで同じ不備があるコインが何枚か存在します。ヘゲエラーとは異なり、コインの一側面にのみ生じますが、ヘゲエラーと同様に価格を減少させる効果があります。
こちらの記事はのちに第2部が公開されます。第2部では使用跡、洗浄、天候などの外的要因を扱います。
保存状態やグレードについては、こちらの記事をお読みください。
コイン、記念硬貨、メダルなどの違いについても、説明記事を公開しております。ご興味のある方はこちらからお読みいただけます。