グレードとは何か?

これらのコインの鋳造年が数年しか違わないにもかかわらず、時間の経過が残した痕跡は顕著に異なっています。写真:BrayLockBoy / CC BY-SA 3.0
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本記事では、コインに興味を持っていらっしゃいながらもコイン収集の世界にまだ詳しくない方のために、極めて重要なテーマであるグレードの基本をご説明いたします。その際、注意すべき点や、読者の皆様から寄せられるよくある質問にもお答えいたします。

 

グレードとは何か?

古いコインは、収集品になるまで多くのことを体験してきました。例えば何年にもわたって人々の間で支払い手段として流通したり、何世紀にもわたり地面下あるいは水面下に眠っていたりします。その際、すり減り・摩耗・傷などの損害を被ることがしばしばあります。真新しいコインでも、うっかりして落とされることや指の痕跡が残ることがあり得ます。

コインの品質を鑑定する時、そのコインの保存状態を評価します。コインの保存状態に関する記述には、世界中のディーラーと収集家たちが当該コインの外見が想像できるように、明瞭に定義されている特定の用語が定着しています。保存状態を言うそれらの基準用語は「グレード」と呼ばれています。その由来は、カタログにコインの写真が掲載されていなかったゆえに、言葉だけでコインの保存状態が推測できるようにする必要があった時代です。なぜなら、コインの保存状態こそがコインの価格の決定的な要因だからなのです。

 

グレードにはどのようなものがあるのか?

通常の英語のグレードは簡単な形容詞でありながら、その意味は明瞭に定義されています。しかし、英語の響きに騙されないように注意すべきです。そのために本記事では英語の名称に加えて、日本語の対応している名称も挿入しております。あるコインが例えば「fine(f)[日:並品]」と鑑定されたら、非常に悪く評価されたことを意味します。このようなコインは、摩耗の痕跡が明瞭で、ほとんど取引されないのです。それよりも悪い評価としては「very good(vg)[日:劣品]」と「good(g)[日:収集不適品]」のみです。このようなコインは、その種類が極めて珍品でない限り、市場において取引されることは滅多にありません。

「fine[日:並品]」の次に良いグレードで初めて、貨幣学世界において「収集するのに相応しい」とされ、市場において定期的に取引されるのです。それは「very fine(vf)[日:美品]」です。それより良いグレードは「extremely fine(ef)[日:極美品]」であり、伝統的な鋳造技術を以て得られる最高のグレードは「brilliant uncirculated(bu)[日:未使用品]」です。ただし、最もよく保存されているコインについて「Fleur de Coin(FDC)[日:完全未使用品]」という呼び方も見られます。ところで、仮にコインを洗浄しても、そのグレードを格上げすることは不可能です。

 

グレードの背景には一体何があるのか?

これらの差異をよりよく理解するために、いくつかの実例を取り上げます。上記では共和政ローマの保存状態が異なる同種類のコインが5枚掲載されています。最初のコインは「未使用品」とグレーディングされています。「未使用品」のコインには、名前から推測できる通り、何の摩耗もあってはなりません。未使用品と鑑定されるようなコインは、僅かだが古代のものも残っています。ところが、マケドニアの盾にある小さな象が完璧な状態にないゆえ、そのコインは「未使用品」ではなく「ほぼ未使用品」として掲載されています。保存状態の劣化のレベルは、本記事のギャラリーにある写真の盾の丸い粒々に注目しながらクリックして見ていくと分かりやすいでしょう。

 

もう一つの例として、当時ドイツ帝国の一部であったバイエルン王国の1872年のコインをご紹介いたします。現代的な鋳造技術を以て機械によって鋳造されるコインでは差異が極めて小さいので、細部に目を向けることで保存状態がより明確になります。この場合の保存状態を評価するには、鷲の胸にある小さい盾を見ることが最も分かりやすいです。「未使用品」というグレードは、その盾が完璧な状態にあるコインにのみ与えられます。「極美品」の場合は、盾が明瞭に見られる状態でなければなりません。「美品」の場合は、盾に輪郭がまだ見えますが、美品のコインはオークションでほとんど取引されないゆえ、写真も掲載しておりません。

グレードは、それぞれのディーラーによって鑑定されるので、その個人的な判断によって差異が生じ得ます。コインのグレードは、理論上そうあってはならないにもかかわらず、その鋳造年に基づいて与えられることが多いです。ただし古代のコインの場合は、時の経過の痕跡をより大目に判断することもあります。

ところで、コインの両面のグレードには大きな違いもあり得ます。その場合は、斜線を間に挿入して二つのグレードが挙げられ、前者が表面、後者が裏面を指しているのです。

 

「ほぼ極美品」の意味は?

保存状態をより明瞭にするために、通常のグレードの中間段階が三つ存在しています。例えば「美品」とその次に良いグレードの「極美品」の場合は、その間に「良い美品」、「美品―極美品」、そして「ほぼ極美品」の中間段階があり、それらはオークションの際よく使用されます。

 

プルーフは?

プルーフと準プルーフがしばしばグレードとして掲載されていますが、正確にはグレードのことではなく、コインが鋳造される際に特別な処理をされる鋳造工程のことを指しています。円形プレス粗材、すなわち後に鋳造される丸い未加工鋳造品と鋳造に使われる鋳型は、コインに鏡のように反射する表面を作るために特別な事前処理を受けます。この工程は極めて大きな費用を伴うため、鋳造数は少なく、収集家にとても人気があります。

現代の収集型コインの場合は、ご自身が評価する際に、無視しても全く問題ないマーケティング用語が多数あることにご注意ください。例えばオーストリア造幣局の「handgehoben」というグレードも、「unzirkuliert[英:uncirculated、日:未使用品]」と同様の意味を持っているのです。

 

 

保存状態は重要か?

人によって価値観が異なるので、各々が判断する必要があります。もしコインの歴史だけで喜びを感じ、生涯それらを売る意図がなく、その上でいくつかの細部が明瞭でないことも気に留めない希有な収集家であれば、コインの保存状態は特段重要ではないでしょう。しかし、もしお持ちのコレクションを投資としても考え、コインの価値も重要と思われるのであれば(実際のところほとんどの場合がそうですが)、コインの保存状態が絶対的な基準となります。上の共和政ローマのコインの5枚のサンプルの写真の説明文をもう一度見れば、それぞれのコインの値段も書いてあります。ご覧の通り、同種類のコインで保存状態によって50ユーロから2,000ユーロまでの値段がつけられたこともあるのです。

 

グレードのシステムは世界中で統一されているか?

統一されているとも言えますし、そうでもないとも言えます。多くの国は、独自の用語で定着したグレードの基準を保有しています。しかし、大まかな段階は同様であり、それぞれの言語に対応する用語も決まっているのです。他国の省略記号が英語でどのような語に対応しているかの見当をつけるためには、ウィキペディアプロフェッショナル・コイングレーディング・サービス(PCSG)の一覧表がおすすめです。

 

「MS64 NGC」や「VF25 PCGS」のような省略の意味は?

この質問には、のちの記事でお答えさせていただきます。今日では広く拡大しているアメリカの保存状態のグレーディングシステムは、ヨーロッパの伝統的なのとかなり異なります。1970年代以降は、投資向けの取引から新しい習慣が作り出されました。グレーディングを扱う次の記事ではシェルドン・スケール、グレーディング、そしてホルダー等のテーマを詳しく取り上げる予定です。