硬貨、記念硬貨、そしてメダルの違いはなにか?

(Michael Sander / CC BY-SA 4.0)
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現代コインの世界は複雑で構造的に捉えることが難しいです。定義上「コイン」に当てはまるものは、普通「コイン」と言われているものの一部でしかありません。それに加えて、特殊や雑種のコインの上、記念貨、収集型コイン、非循環の法貨、地金型金貨等の数多くの誤解を招きやすい概念が存在しています。混乱を防ぐために本記事では、最も重要なコインの種類を概観いたします。

 

1996年の5スイスフラン硬貨。額面価格、紋章、発行国名、そして鋳造年が刻印されており、典型的な流通硬貨です。(写真:スイス造幣局 / ウィキペディア)

流通貨(Circulation Coins)

典型的なコインである流通貨からご説明させていただきます。流通貨とは国家によって発行されるものであり、額面価格の有する当該国家の法定貨幣、すなわち通貨です。通常は国名や君主の肖像など、国家のシンボルが刻印されています。いわゆる「本当の」コインであるゆえに発行国あるいは発行領域の中で流通し、新しいコインに取り替えられて法定貨幣の機能を失ってさえいなければ問題なく支払い手段としてご利用できます。

 

 

1984年のロサンゼルス・オリンピックを記念する米国の10ドル硬貨。金製のこの記念硬貨は戦後米国初の金貨です。(写真:アメリカ合衆国造幣局)

記念貨(Commemorative Coins)

記念貨とは、特別なモチーフを有するコインです。記念式典や条約、そして人物等を記念するために国家によって一度のみ発行されます。

その額面価格と素材価格より遥かに高く売られるこれらの記念貨のターゲット層は、今日では主に収集家です。そのため、これらのコインは流通することがほとんどありません。流通しているコインと違って記念貨は、流通貨には見られない額面価格を有します。さらに、記念貨は貴金属から製造され、ゆえに鋳造には大きな費用がかかるのです。

記念貨とは、典型的な意味でのコインです。理論上、そしてこれが決定的な要因ですが、記念貨を支払い手段としてご利用できます。しかし実際は、これはほとんどあり得ないことです。一方、スーパーで記念貨を使って払おうとすればレジ係に怪しがられるだけでなく、支店長を呼び出さずに済まないでしょう。他方、記念貨は通常、その額面価格より遥かに価値があるのです。金製と銀製のコインの場合は特にそうです。

 

2ユーロ記念硬貨は、流通している記念コインの良い一例です。2007年のグレース・ケリー妃の25回目の命日を記念し、2000ユーロを超える価格を得ているモナコのこのコインのように、流通記念貨は価値が高騰し得るものです。(写真:欧州中央銀行)

流通記念貨(Circulating Commemoratives)

理論上、「流通記念貨」という概念は無意味です。なぜなら、以前すべての記念貨がしていたこと、すなわち通貨と同様に流通していたことを指しているからです。このようなコインはある出来事をモチーフとしており、通常流通しているコインを補足するのです。そのためにも、収集家にとって大喜びですが、釣り銭の中に見つけることができます。これは、2ユーロ記念貨の形で他国の記念貨を手に入れることのできるユーロ圏に特に当てはまります。イギリスでは、50ペンス硬貨がこの役を担っています。有名な例としては2009年のキューガーデン(英国王立植物園)硬貨や2016年のヘイスティングズの戦いを記念するコインがあります。米国でも流通記念貨がよく発行されます。例えば「50州25セント硬貨」や「アメリカ・ザ・ビューティフル25セント硬貨」、そして「アメリカン・イノベーション1ドル硬貨」が挙げられます。ドイツの旧通貨マルクとオーストリアの旧通貨シリングのすべての記念貨(50、100、500シリング)も流通記念貨でした。

 

2016年の初めての重合体リングの有しているコイン、ドイツの「Blauer Planet Erde[ブラウワ・プラネート・エルデ「地球という青い惑星」]」硬貨は、正式に収集型コインと呼ばれています。(写真:Hans-Jürgen Fuchs / BADV.)

収集型コイン(Collector Coin)

収集型コインは誤解の招きやすい概念で、流行するようになったのも近年のことです。原則的には、世界中で記念貨の同義語として定着しています。その裏には、欧州中央銀行があります。2001年のユーロの通貨としての導入以後は、各国の記念貨が全ユーロ圏において法定貨幣として承諾される義務がありましたので、ユーロ圏国家は、独自の記念貨を発行できなくなったのです。それを受け、国家間では最終的に、記念貨と呼ばずに収集型コインと呼ぶ収集家向けの、当該国家でしか法貨として使用できないコインを発行しても良いという妥協に至りました。

収集型コインの有名な例としては、「Klimazonen der Erde[クリーマツォーネン・デア・エアーデ「地球の気候帯」]」シリーズのようなドイツの重合体コイン、多くの場合潜像を有しているスペインの収集型コイン、そしてオーストリア造幣局の銀とニオブの2素材コインが挙げられます。

 

南アフリカ共和国のクルーガーランド金貨は最も有名な地金型金貨であると同時に、額面価格がないゆえ多少特殊です。(写真:CoinInvest GmbH / via Wikipediacommos CC BY-SA 4.0)

地金型金貨(Bullion Coins)

地金型金貨というのも、特別なケースです。それらの価値はその額面価格にも収集価値にでもなく、その素材価値にのみ基づいています。原則的には小口投資家のための鋳塊と言って良いでしょう。その目的は支払いでも収集でもなく、その貴金属の価値の上昇に対する期待に基づく投資のみです。ほとんどの地金型金貨は、名前の通り、金製のコインです。しかし、今日では白金やパラジウム、そして銀の投資用コインを発行する造幣局も増えつつあります。

全てではなくてもたいていの地金型金貨は、そのコインの通常は何倍も高い価値と間違えてはならない額面価格を有しています。

世界で最も有名な地金型金貨は、南アフリカ共和国のクルーガーランド金貨です。その他に米国のイーグル金貨とバッファロー金貨、そしてオーストリアのウィーン金貨も有名です。時には、スイスのブレネリ金貨や特定の鋳造年の英国ソブリン金貨のように、鋳造数の多い歴史的金貨も地金型金貨として使用されることがあります。

 

Tiffany Art  非循環の法貨の「良い一例」としては、リヒテンシュタインのCIT社の硬貨があります。それらは今日、最先端の鋳造・精錬技術を以て得られる結果を示しています。(写真:CIT.)

非循環の法貨(Non Circulating Legal Tender; NCLT)

非循環の法貨は国家の名において発行され、額面価格を有しています。すなわち、これらは正式で合法的な支払い手段であり、ゆえにコインです。しかし、名前にある「非循環」の通り、発行国では流通せず、そもそも外国の収集家向けに製造されているのです。製造者の所在地もたいてい国外にありますので、作られたほとんどのコインはその発行国の地に流入することがありません。そのための努力は、1970年代から収集家にとって「本当の」コインという位置づけがますます重要になってきているゆえにされるようになったのです。

非循環の法貨は例えばニウエ、クック諸島、コンゴ、パラオ、そしてツバルのような国家の名において発行されることが多いですが、カナダ王立造幣局のほとんどの商品も同様に非循環の法貨に含まれています。

非循環の法貨を批判する人は、それらをよく「偽りのコイン」と呼んでいます。非循環の法貨の品質は、製造者によって異なっており、駄作やキッチュから芸術的且つ技術的傑作品までまたがっています。新機軸の技術等が非循環の法貨として試され、のちに記念貨に使用されるようになる場合が多く、例えば初めてのカラーコインも当初、非循環の法貨でした。

 

一見コインに見えますが、コインではありません。ベルリンのこの作品のように、額面価格がどこにも見当たらない場合がメダルです。

メダル(Medals)

メダルはコインではなく、芸術品なのです。ゆえに、額面価格や発行国を有しておらず、どの組織や私人によっても発行され販売され得ます。2019年の「Currywurst-Münze[カリーヴルスト・ミュンツェ「カレーソーセージ硬貨」]」が有名な実例です。ベルリン造幣局によって発行された上で、ブランデンブルク門の刻印ゆえにコインらしく見えるにもかかわらず、さらに記者たちにも「コイン」として呼ばれたにもかかわらず、額面価格や発行国の有しないメダルなのです。

 

米国軍の第299旅団支援大隊のチャレンジ・コイン。写真:Lubicz / CC BY-SA 4.0

チャレンジ硬貨(Challenge Coins)

チャレンジ・コインは、その名にもかかわらずコインではなく、メダルの特殊な一類なのです。その由来は軍ですが、今日では民間の世界でも広まっています。勲章ほど表彰性格はありませんが、警察隊や消防隊等でそれぞれの部隊の中での団結の象徴として授与されているのです。勤務年限後も思い出や当該部隊との結びつきの品としても機能します。チャレンジ・コインの名前の由来は、要請された際にすぐ出して見せなければならないという伝統から来ているのです。詳細は、CoinsWeeklyの下記の英語の記事a記事bでも説明されています。

 

イギリスでは、最近、どのような種類のコインで支払おうとしているのかを明確にすることが、いかに大事であるかが分かる不思議な出来事がありました。ミヒャエル・アレクサンダーがそのケースの真相を下記で突き止めてくれました。