2022年4月29日
英国王立造幣局と泰星コイン(東京)
初の共同オークション
日本最大のコイン専門商社の泰星コイン株式会社は、英国王立造幣局と2022年に開催される東京国際コイン・コンベンションに向けて、意義深い共同事業を発表しました。泰星コインと英国王立造幣局は、2022年に開催される東京国際コイン・コンベンションにおいて、英国、日本、世界の希少なコインを一堂に集めた初の共同オークションを開催することを決定しました。このオークションは4月29日に東京で開催されます。出品点数は809点です。日本やイギリスのコインに加え、非常に希少な中国のコインも出品され、過去最高の価格がつくことが予想されます。オークションのハイライトはこちらでご覧いただけます。
Japan
Lot 71
豊臣秀吉は天正16 年(1588 年)から、史上最も絢爛豪華な天正大判を製造しました。表面に中央上部から拾両・後藤、下部には大判座後藤家により後藤の花押が墨書きで書かれ、上下左右に桐紋が打たれています。はじめての定量大判として、量目は44 匁(165g)と定めました。秀吉は天正17 年(1589 年)5 月に天正判4,700 枚、その他の金・銀をばら撒いて聚楽第で有名な「太閤の金くばり」を行い勢力を誇示しました。当時日本は世界一の産金国であったと思われ、各地より大量の金銀を献上させた秀吉の辣腕ぶりが偲ばれます。
天正大判には数種類ありますが、この中でも世界最大の金貨と世界に名を馳せた長大判は、世界トップレベルの名品と言えます。現存数が少ない長大判の中でも長径が165mm を超える判は非常に稀少で、驚くことに本品は171mm と最大級のものであると思われます。また、長大判の桐紋は10mm と天正大判に比べ1mm ほど小型であるのが特徴です。本品は大型で、墨書・判とも最高の保存状態であり、名品中の名品と言えるでしょう。
Lot 73
背の「元」の極印は元禄大判金だけに打たれた年代印です。非常に人気が高い元禄大判金は、大判金の中では最も発行数が多いとされていますが、現存数は極めて少なく、天正菱大判金、天正長大判金に次いで高い評価がされています。本品は極めて状態が良く、収集家には見逃せない逸品です。
Lot 70
日本初の近代貨幣を製造するにあたり、明治政府は英国王立造幣局に試鋳貨の製造を依頼しました。これらの試鋳貨の年銘は流通貨発行前年の明治3年になっており、裏面の図柄は流通貨で採用された錦の御旗と異なり旭日紋様になっています。また、表面は流通貨と同じ竜図ですが、加納夏雄自身が彫刻した流通貨の刻印と異なり、試鋳貨の極印は加納夏雄の図案をもとに英国王立造幣局でウィリアム・ワイオンの息子レオナード・ワイオンが彫刻したものです。英国王立造幣局で製造された試鋳貨の完揃いセットは2セットが現存しますが、これらに含まれる1円試鋳貨は錫打ちです。一方、本オークション品は銀打ちです。極めて珍しい逸品です。
Lot 103
日本初の近代貨幣は明治4年に制定された新貨条例によって発行されましたが、明治4年銘になっている1円金貨、10円金貨と異なり、同じくこのときに発行された2円金貨、5円金貨、20円金貨の年銘は明治3年になっています。そして、後年の年銘の金貨の竜図には日本の造幣局で加納夏雄が彫刻した極印が使用されていますが、この明治3年銘の20円金貨の竜図には英国王立造幣局のレオナード・ワイオンが彫刻師した試鋳貨の極印が使用されています。
Great Britain
ソブリン金貨の誕生
薔薇戦争は15世紀イングランド王国におけるランカスター朝とヨーク朝の30年に及ぶ権力闘争でした。そのボズワースの戦いで、ランカスター家のヘンリー7世はヨーク家のリチャード3世を破って王位を勝ち取り、戦いで王座を得た最後のイングランド王となりました。ヘンリー7世(在位:1485年~1509年)は、ヨーク家のエドワード4世の娘エリザベス・オブ・ヨークと結婚することで王位を安定させ、薔薇戦争による混乱を解決し、エリザベスとチューダー朝を創設しました。
ヘンリー7世がチューダー朝の財政を安定させるために発行したのが、240グレイン(15.15グラム)の重さを持ち、20シリングに相当し、現代に続く1ポンドの誕生となった「ソブリン」(=君主)金貨です。ヘンリー7世が発行したハンマー打ちのソブリン金貨には5種類が知られています。最も古いタイプ1(Spink# 2172)は1枚しか現存せず、大英博物館が所蔵しています。本オークション品は、次に古いタイプ2(Spink# 2173)です。タイプ2は4枚の現存が知られ、そのうち2枚は博物館が所蔵しており、本品以外に個人所蔵のものは著名なコレクターHerbert Schneiderの旧蔵品のみです。ヘンリー7世のソブリン金貨が市場に出ることは極めて稀であり、そのタイプ2の状態の良い逸品が市場に出ることは今後いつあるか分かりません。
表面には、王冠を被り、笏を持ち、正面を向いて玉座に座ったヘンリー7世が描かれています。裏面には、ランカスター朝の赤薔薇とヨーク朝の白薔薇を重ね合わせたチューダー朝の紋章が描かれており、薔薇戦争を終結させたヘンリー7世の王位の正当性を象徴しています。タイプ1とタイプ2の違いとして、タイプ2には王座の背景にフルール・ド・リス(ユリの紋様)が描かれており、また、棘十字のミントマーク(裏面上部)が使われています。
The “Three Graces”
歴史上最も有名なコイン彫刻師の1人であるウィリアム・ワイオンが彫刻し、歴史上最も人気のあるコインの1つである「スリー・グレーセス」は、ワイオンが1817年に英国王立造幣局のデザイン・コンペに提出した試鋳貨で、ライバルのベネデット・ピストルッチに負けたため50枚しか鋳造されておらず、その希少性と美しさの両者でコイン史における特別な存在となっています。ワイオンは3人の女神像をアントニオ・カノーヴァがギリシャ神話を主題に制作した新古典主義の彫刻を参照して創作しましたが、ここではハープを携えた女神がアイルランドを、英国旗模様の盾を携えた女神がブリテンを、アザミの花を携えた女神がスコットランドを表しています。最新の蒸気機関を使った打刻機で製造されたコインの図柄は彫りが深く鮮明で、美しいトーンを醸した本オークション品は現在のグレーディングにおける最高値のPF65です。
Lot 510
ヴィクトリア女王像のソブリン金貨でこれほどグレードの高いものは少数しか存在しません。見事な状態で伝世した逸品です。
Lot 525
この驚くほど斬新で美しい「聖ゲオルギオスと竜」図と、見事に彫刻された頭髪と髭のジョージ5世の肖像の打刻されたクラウン銀貨は、英国王立造幣局でアラン・G・ワイオンによって彫刻された試鋳貨で、10枚しか鋳造されていません。竜図の下にA.G.W.のイニシャルが打刻されています。
China
Lot 218
上海租界の工部局による依頼で、中国統一通貨の試鋳貨として香港造幣廠で製造されたもので、上海で流通していた両の単位になっています。英国色の強いデザインになっていますが、中国の中央政府に採用されず、ほとんどが鋳潰されました。竜図の周囲に光線模様のあるタイプと、ないタイプが存在し、それぞれ2、3点ずつしか現存が知られていません。極めて状態の良い逸品です。
Lot 219
1903年、中国政府は金本位制にもとづく通貨制度改革を目指し、「両」単位の銀貨を試鋳しました。5種類の額面の試鋳貨の極印は日本の造幣局が製造し、打刻製造は天津造幣廠で行われました。本オークション品は、その最高額面の1両貨です。現在、この試鋳貨は打刻面の特徴からオリジナルと再鋳貨に区別できることが知られていますが、近年までこの区別はされておらず、現在でも再鋳貨のグレーディングのスラブには「RESTRIKE」と表記されないことがあります。再鋳貨は、エジプトのファルーク国王のために多くの再鋳貨が製造された1950年代初頭に製造されたものではないかと推測されます。
Lot 247
「メメント・ダラー」と呼ばれる孫文像の中華民国開国記念の圓銀には多くのタイプ/手変わりが存在します。その中で、本オークション品は裏面の銘文の間(上部)に五角星が打刻されたタイプで、さらに孫文の耳の下に点がある最も稀有な手変わり品です。極めて状態の良い逸品です。
Lot 255
「ファットマン・ダラー」と呼ばれる袁世凱像の圓銀は、孫文像の圓銀「ジャンク・ダラー」と並び中国コインの中で最も人気のあるコインの1つです。本オークション品はその試鋳貨で、流通貨と異なり、極印を彫刻師したルイジ・ジョルジの名前「L. GIORGI」が表面に刻印されています。ジョルジはイタリア王立造幣局の主任彫刻師で、清帝国から中華民国への移行期に多くの中国コインの肖像を彫刻し、それまで肖像がほとんどなかった中国コインの近代化に大きな役割を果たしまし、その中でも有名なのがこの見事な袁世凱の肖像です。本品はMSと異なり刻印が極めて鮮明なスペシメンです。
伝説的なカタログに掲載された中国近代貨幣の大珍品
張作霖像の金銀銅貨はすべて天津造幣廠で製造された試鋳貨で、中国近代貨幣の珍品として知られています。そのうち銀貨は圓銀4タイプの存在が知られており、Eduard Kannが著した重要な中国近代貨幣カタログ(初版1954年)にKann# 685-688として掲載されています。これらのコインはコレクターにとって特別な存在になっており、近年、欧米の大手オークションに出品された2点の圓銀(ともにKann# 688)は、中国近代貨幣における記録的落札価格を実現しました(Stack’s & Bowers 2021年4月: 2,280,000ドル; Heritage Auctions 2021年12月: 2,160,000ドル)。
本オークション品は、長らく市場に出ることのなかったKann# 687です。そして、NGC社のBen Wengelの調査によって、本オークション品はKannカタログに掲載された図版のコインそのものであることが判明しました。Kannコレクションは1971年6月にHans Schulmanのオークションに出品され、Kann# 687はJess Petersが落札しています。Schulmanオークション・カタログと、Peters が1972年1月に刊行した中国の圓銀価格ガイドにKann旧蔵のKann# 687の写真が掲載されており、PetersはそれがKannカタログの図版のコインであることを記しています。印刷の粗いKannカタログと異なり、これらの写真はより鮮明で、本オークション品のトーンの特徴がこれらの写真のコインと一致することを突き止めたのです。伝説的な中国近代貨幣カタログの図版に使用されたコインという来歴は、この珍品にさらなる付加価値を与えるものです。今回、参考文献やオークション・カタログを網羅的に調査した結果、現存するKann# 687は本品を含め2点のみが確認されました。
Lot 278
最も有名な中国コインの1つである孫文像の「ジャンク・ダラー」にはその発行に当たり製造された多くの試鋳貨が存在しますが、本オークション品は、金本位制の採用が検討された際に中華民国政府がアメリカのフィラデルフィア造幣局に極印の製造を依頼し、上海造幣廠で製造された試鋳貨です。裏面に「金本位幣壹圓」の銘文が入っているのが特徴で、実際には発行されなかったため、著名な珍品となっています。現存数は10枚ほどと考えられ、さらに、この試鋳貨には4種類のエッジのバラエティーが存在し、本品はプレーンエッジです。本オークション品は伝説的な中国近代貨幣カタログの著者Eduard Kannの旧蔵品であることが1972年刊行のJess Petersのカタログ写真によって確認されています。
Others
Lot 580
この魅力的なデザインのコインは、当時香港で流通していたメキシコ・ドルを模して香港造幣廠で鋳造されたものですが、中国での受容が悪く、1866年から1868年までしか鋳造されませんでした。その結果、香港造幣廠は閉鎖となり、造幣機械類は創設されたばかりの日本の造幣局に売却されました。プルーフ貨には4種類あり、縁のギザあり+図柄の上下回転、ギザあり+左右回転、ギザなし+上下回転、ギザなし+左右回転で、本品はギザなし+左右回転の逸品です。
Lot 641
「極楽鳥」の5マルク銀貨は通常のMSを含め23,000枚が鋳造されましたが、通用停止後に19,000枚が鋳潰されました希少なコインです。本品は、この著名なコインの極めて状態の良いプルーフです。
泰星コインのオークションのオンラインカタログはこちらからご覧いただけます。
英国王立造幣局(The Royal Mint)と泰星コインのウェブサイトはこちらからアクセスできます。