オーストリアのカラフルな金属:ニオブ硬貨

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コインの鋳造に使われている、あるいは使われてきた金属の数はもともと多くはありません。典型的なのは、金、銀、そして銅/青銅です。これらに加えて今日では、たまにプラチナ(白金)、パラジウム、また稀なものではチタンやいくつかの卑金属、主として錫、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、そして鉄が単独あるいは合金で使用されることもあります。これは、鋳造に新たな金属を導入するのは珍しいということを示しています。しかし、オーストリア造幣局は2003年、ニオブのコアのバイメタルコインを初めて発行することで、まさに新たな金属の導入を実現しました。ではなぜニオブを使用したのでしょうか?それは、オーストリア造幣局が示したように、ニオブは新しく面白い加工ができるからです。

 

ニオブの先駆者・チタン

20世紀末頃まで遡ってみましょう。1992年には初めてカラー印刷のコインが発行されると、数年で市場だけでなく収集家の人気を獲得しました。しかしながらそれと同時に、これらの「色付けされた」コインに対して不満を抱いていた収集家も少なからずいました。そのためにも、最先端の鋳造技術に精通したオーストリア造幣局は、コインに色を実現する他の方法を模索していました。その方法の一つとして考えられたのは、新たな金属の使用でした。新たな金属を使った実験の結果は2000年に発表され、銀のリングとチタンのコアのバイメタルコインが選ばれました。加工を施し難いチタンはつい最近になってコインの鋳造に使われ始め、チタンのコインを最初に発行した国の中にはオーストリアも含まれています。

 

2000年、オーストリア造幣局による初めてのチタンのコアを持ったコイン:100シリング コミュニケーション/ミレニューム 写真:Münzhandlung Ritter

しかし残念ながらチタンは刺激的な色を持たず、加工過程も期待を裏切るようなものでした。それでも2000年及び2001年の「コミュニケーション」と「可動性」をテーマとした100シリング硬貨は技術的に優れたものであったに違いありません。

この2枚のチタン硬貨は、ニオブのコインと違ってユーロ導入前のシリング時代に発行されたために、多くのニオブの収集家によって見逃されている状況にあります。しかし、モチーフ、発行量、技術的特徴から見ればそれらの革新的なチタンコインはニオブのコインと非常に類似しており、オーストリアのニオブコインの収集家にとってコレクションを充実させるものとして有意義でしょう。

 

ニオブとは?

オーストリア造幣局は、より適した金属を模索するため、金属に特化したチロルのハイテック会社プラーンゼー(Plansee)と協力しました。そして数多くの実験の結果、鋳造に非常に適した金属ニオブが見つかりました。

ニオブは、チタンのように主として宇宙飛行や鉄の加工に使われる希少金属です。自然状態では灰色で、色の新たな実現方法の模索に適しているようには見えません。しかし、その珍しい性質により、ニオブを様々な色に輝かせることができるのです。これは、陽極酸化(アノード酸化)という処理方法によって、金属の表面に酸化皮膜を成長させて実現します。酸化皮膜の厚さによって光の屈折が異なり、ニオブの色が変わります。以前のチタンの実験では、灰色の様々な色合いしか実現できませんでしたが、ニオブの際は、処理に必要な加熱の温度も遥かに低い上、様々な輝かしい色が実現できます。

 

初めてのニオブコインは、チロルにあるハル市に献呈されました 写真:Emporium Hamburg

革新と伝統

それらの実験の結果は、2003年に発行された世界初のニオブコインでした。額面価格は25ユーロであり、リングは銀、コアは青色のニオブから出来ていました。この革新的なコインがコイン鋳造界の革新センターの一つであったハル市とその700周年に献呈されたことは、テーマとしてもふさわしいと言えます。それというのも、ハル市では中世後期において初めての連続的な大型銀貨、ターラー(ターラーという名称が使われるようになったのは後のことです)の発行が果たされたからです。この初の大型銀貨、1486年の「豊富なコイン」というニックネームが付いたオーストリア大公ジークムントのグルデングロッシェン銀貨の陰画が、ニオブのコインに刻印されています。鎧兜を身につけており、馬に乗ったかっこいい騎士が描かれています。コインの額面の刻印された反対側には、モダンな技術が使用されています。最先端な技術であった衛星技術を使ったハル市の測定に、今では「懐かしい」と思うかもしれませんが、当時は未来的な印象があったデジタルアラームクロックのフォントが刻印されています。

 

初めてのニオブコインの成功は印象的で、オーストリア造幣局でも意外だったはずです。そのコインは鋳造量が5万枚で、37.90ユーロという価格で発行されました。しかし、ただちに売り切れになり、第二市場での価格は一気に高騰しました。そのために翌年の第二シリーズに対する需要も、予約時点で売り切れになるほど高かったです。それに伴い2005年のニオブコインの第三シリーズの際に鋳造量は65,000枚に上げられましたが、それ以降はもう変わることがありませんでした。なぜなら、その時点では過大な人気が終わり、需要が満たされ、価格の上昇も見通せるものとなったからです。一方で、最初の発行期、そして特にハル市のコインは、現在でも収集価値が高く、価格が450ユーロと見積もられています。

 

2003年以降、25ユーロの額面価格の新しいニオブコインが毎年発行されます。それらはシリーズの名前が常に決まっているわけではありませんが、たまに「オーストリアの技術」か「技術の魅了」というタイトルで発行されます。以前のシリーズは鉄道、航空、トンネルの建設事業等をテーマとしましたが、最新の「宇宙の命」シリーズの「小さい緑の宇宙人」ではっきりわかるように、最近のモチーフはやや未来的なビジョンやサイエンスフィクションの方向に向いています。

 

2003年以降のニオブコインを見ると、その期間に技術がどれほど発展したか明確に分かります。ニオブの最適な処理方法が研究されつづけた結果、2007年以降により輝かしい色のエフェクトが実現できるようになりました。また、モチーフもより複雑でより詳細なものになりました。画期的な進展は、2014年に「進化」シリーズにおいて初めてマルチカラーのニオブのコアが発表されたことです。ところで、このコインも、価格の上昇が見られるコインの一つです。

 

評判

20年弱が経とうとする現在も、ニオブコインは非常に収集家の人気を集めています。専門家はニオブコインの技術的な結果を定期的に、Coin-of-the-Year賞(Coty賞)で評価しています。過去8回のCoty賞(2015–2022年)においてだけでも、オーストリアのニオブコインは6回も(!)ベスト・バイメタル貨幣賞を受賞しています。最も革新的な貨幣賞は不思議にも第5シリーズのニオブコインで2008年にはじめて受賞しました。

 

しかし、ニオブを使用したコインが他の造幣局にも定着したとは言いがたいです。その理由はおそらく難しい処理過程にあると思われます。他にニオブのコアのコインはラトヴィアとルクセンブルクにありますが、両方ともオーストリア造幣局が鋳造したものです。さらに、世界中の革新を自国のコインに当てはめることで有名なカナダ王立造幣局も、2011年から何枚かのニオブコインを鋳造しました。島国のために鋳造される非循環の法貨の分野でもたまにニオブコインが現れます。一方、オーストリア造幣局が元々はねつけたチタンコインの色塗りも今では他の造幣局で実現されています。例えば、イギリスのポッブジョイ(Pobjoy)造幣局は、チタンを使用した二色コインの鋳造に成功しています。

 

ニオブコインは本来、カラー印刷のコインに代わるために開発されました。オーストリア造幣局のニオブシリーズは20年弱成功し続けています。しかし、現在では広範に普及しているカラー印刷の競争相手にはなれませんでした。さらに、オーストリア造幣局ももちろん、カラー印刷のコインを現在鋳造しています。それにもかかわらず、上記の技術的に興味深いニオブシリーズを通じてオーストリア造幣局はよりカラフルになったコイン鋳造の世界をより豊かにすることに成功したと言えます。

 

オーストリアの全てのニオブコインは弊社のデータバンクでご覧いだけます。

初めてのニオブコインのチラシはこちらでご覧になれます。