コイン鋳造の歴史において、その技術が過去半世紀よりも速いスピードで発展した例はありません。1970年代に記念貨の収集が「大衆スポーツ」のようなものになってきて以来、世界中の造幣局は、できるだけ多くの顧客を獲得しようと、より魅力的なコインの鋳造に熱心に取り組んでいます。最先端技術は所詮取引をする双方どちらにも利益をもたらします。顧客は、新技術で鋳造された最初のコインについてその価値が上昇する(実際に上昇する場合がある)と期待しており、造幣局の方は新シリーズが売り切れて満足するのです。
しかし、それぞれのマーケティング部門が、根本的な変化が何もないにもかかわらず、より高い売上げの獲得のためにある既存の技術を新しい技術として宣伝する時に問題が発生します。
騙されてしまうことを防ぐために、この記事は現在の最も重要な技術を概観してご紹介いたします。
1. 特殊なコイン鋳造技術
1.1 つや消し(フロスティング, frosting)
最も古い技術の一つであるつや消しは、あまりにも古くから広く使われていますので、実は特別な技術であることに気づかなくなっているというのが現状です。しかし今日、未使用品品質の表面から浮き彫りを際立たせるためのつや消しのレベルが極めて洗練されていますので、つや消しを適切に使いこなせるだけで芸術と言っても過言ではありません。
以前は造幣局の技術者が鋳型を手作業で少しずつ荒らしてこの効果を出していましたが、現在ではこの工程は鋳型の製造時に、又は製造後の処理において行われています。つまり、どれだけのコインを鋳造しても、つや消しの品質は全てのコインにおいて同じになるのです。また、ドイツやアメリカ等の一部の造幣局では、記念貨の造幣枚数が非常に多いですから、多数の鋳型が必要になることを忘れてはいけません。
1.2 高浮き彫り
高浮き彫りという技術は近年、記念貨、特に鋳造枚数が少ないゆえトグルプレス機を使わないで鋳造できる記念貨に革命をもたらしました。そのようなプレス機では、極めて低い浮き彫りしか鋳造できないのですが、新しい技術により鋳造枚数の少ないコインの場合は、最後に19世紀に見られたような高浮き彫りコインが作られるようになりました。
これを技術的に可能にするには、次の三つの方法があります。まず、様々な金属向けに円形板金があります。これらは独自の工程で製造され、その変わった結晶構造により流動性を改善し、より低い圧力を用いても高い浮き彫りを可能にしています。
他の円形板金は鋳造前から、後により多くの金属が使用される箇所に凸面を有しています。記念貨にその中心から離れたところに複数の凸面がある場合は、おそらく事前に形作られた円形板金が使用されていたでしょう。
最後に油圧プレスですが、油圧プレスを用いる鋳造は、金属が最適に流れるように、正確な速度と適切な力で圧力をかけるように最適化されています。これに複数鋳造を組み合わせれば、コインを鋳造する時間さえあれば、ほぼすべての浮き彫りを実現することができるでしょう。
結果は実に感動的なものです。高浮き彫り鋳造技術によって得られる美的品質は、ルネッサンス期やバロック期の先駆者が鋳造していたコインと遜色がないでしょう。
1.3 特殊な形状
今日作られている特殊な形状は、簡単な四角い崖から刻印された微細彫像にまたがっています。その基礎原理は、異なる形状をしている鋳造道具を製造することです。これらには、丸くなく四角いシリーズの鋳造に使用される、上部と下部の鋳型の他に「鋳造輪」という簡単な道具もあれば、複数の部位から成り、円形板金を全体的に囲む最先端な道具もあります。
特殊な形状の例を挙げておくと、例えばポーランド造幣局の発行した、魚や地球儀という多数多様で極めて不思議に思えるものの彫像を刻印したコインがあります。
このような精巧な鋳型を経済的に妥当な時間で制作することは、鋳型の彫刻のデジタル化によって初めて可能になりました。今日では立体的なコインデザインはコンピューターで作成されるようになっており、そしてこのコンピューターはこのような貨幣用の小さな彫刻を形成するために、鋳型をどのように実装するのが最適かを計算します。
これら特殊な形状の特別なタイプとしては、現在では広く拡大しており、例えばオーストラリア王立造幣局が豪華な星空を、アメリカ造幣局が球技に関する記念貨を鋳造の際に使用する「凹面/凸面鋳造」があります。
1.4 微細文字
現在は流通通貨でも適用されている記念貨のもう一つの要素は、紙幣にもあるような微細文字です。微細文字というのは、名前の通り、極めて小さい文字のことです。しかし、微細文字には同工程で作られる他のごく小さい描写やロゴも含まれています。
微細文字の今日のような拡大は、コインのデザインが石膏モデルを使って手作業ではなく、コンピューターで作成されるようになったことで可能になりました。コンピューターでの表示は無限に拡大できますので、より小さな構造を作成することができます。
微細文字は、レーザーによって鋳型に刻印されます。理論上、レーザーが作る線の細さには限界がなく、ナノ構造さえ可能です。しかし実際、鋳型の微細な構造が鋳造によってコインに刻印されることが不可能になるところでその可能性は終わります。基本的には、鋳造速度が遅いほど、微細な文字が刻印できます。
一部の国家が大量生産される流通貨幣にも微細文字を採用していることは、現在の鋳造プレス機の品質の高さを物語っていると言えるでしょう。
1.5 潜像
今日、貨幣の偽造防止技術として使われている潜像についても同様です。すなわち、バロック期に流行していた潜像から刺激を受けている技術なのです。これらの画像は、観察者の視角によって違う描写が見られるように設置されている薄板の異なる側面に二つから三つの絵が描かれて機能しています。
コインの場合は同じ原則が当てはまります。すなわち、二つの絵を有している潜像は、観察者がコインを見る視角を変更することによって違う絵が見られるように、両面において異なる描写を表示しているごく小さい二つの側面を有している構造から成っています。
しかし、潜像に特化しているスペイン造幣局の場合では、二つの潜像には留まりませんでした。現在では既に、光の入射角によって四つの異なる絵が見られる潜像を発表しています。
1.6 虹色のカラー着色
コインにおいて全面的に、あるいは部分的に虹色のカラーを表示するには、鋳型の製造がより微細に行わなければいけません。この場合は、レーザーにナノレベルの構造を作る必要があります。
さらなる進展を導いたのは、カナダ王立造幣局ですが、試作段階において、ナノ技術によってカラーをコインにプリントせずに色を表示できることを示してくれました。その場合色は、蝶の羽のように目の錯覚を通して作り出されます。その際、ナノ粒子が当てられる光線を様々な色に屈折させているのです。
1.7 QRコード
この分野においてもう一つの構想としては、コインに微細なQRコードの刻印があります。しかし、現実に存在しているコインの、インターネットの世界への拡張は、未だほとんど使用されていないというのが現状です。
2. 素材
2.1 バイメタルのコイン
バイメタルのコイン、すなわち二つの金属から構成されているコインは、技術の奇跡であるにもかかわらず驚嘆しなくなってきているほど日常的なものになってきています。EUではユーロを通貨としての導入以来、二つの異なる金属から構成されている外部リングと中心コアから成る1ユーロ硬貨と2ユーロ硬貨があります。外部リングと中心コアをまとめる秘密は、鋳造によるそれらの変形にあります。リングもコアも拡大して、その拡大を通して生じる圧力によってコアがリングを固定しています。
ユーロ導入後に有名なインターネット・オークション会社のサイトにおいて「エラーコイン」として提供されていたもの、すなわち表面表示のリングに裏面表示のコアをひねて入れられているコインは、技術的に不可能なものです。その他に、b国のリングの中にa国のコアが嵌め込まれているコインも同様です。
この謎の解答は、貨幣学のフォーラム等によると、「ママの冷凍庫」です。寒さによって金属は、僅かであってもリングとコアの間の圧力が消えるほど縮小します。それによって両部分は分割した上でひねて再び入れることができたのです。のちに金属を温めたら、金属はリングとコアをまとめるのに必要な圧力が生じるほど拡張していっていました。
2.2 三素材コイン
以前にも重合体リングを使った記念貨を鋳造することに成功していた例があるにもかかわらず、ドイツがその流通記念貨「Planet Erde[プラネート・エルデ「地球という惑星」]を発行した際に世界中の新聞で大きく報道されることになりました。例を挙げると例えば、チューリヒのコイン販売店Dietrich(ディートリヒ)は2010年にギリシャが負債の罠に陥った時に、リングとコアが黒い重合体リングによって分離されていた「悲嘆ユーロ硬貨」を販売していました。
ドイツの流通記念貨に使われた重合体リングは、鋳造される上でカラー粒子が混ぜ合わせられているゆえに質がより高く、それによって、普段は紙幣でしか見られないような、例えば赤色灯や紫外線でしか表示されない様々なカラーエフェクトが実現可能になります。
2.3 ニオブやタンタル、そしてチタン等という特殊素材
他の素材からコインを鋳造することは簡単に思えるかもしれませんが、素材ごとに異なる結晶構造が問題になります。それらによって他の素材は脆く鋳造しがたいゆえ、その素材を使ってコインを鋳造することも甚大な費用がかかり経済的に不合理です。金と銀と比べて白金の地金型金貨が少ない謎の解答は、これが一つです。白金を使ったコインの鋳造は技術的に可能ですが、通常のコインと比べて費用が非常に大きくなるのです。
3. 鋳造後の表面処理
3.1 カラー着色
ドイツが2018年にその初めてのカラー記念貨を発行した時に、カラー着色という技術は目新しいものではありませんでした。なぜなら、例えばCITがHagueninと協同で1992年という早い時期に既に初カラー硬貨を発行していたからです。そのコインでパラオ共和国はその「Marine Life Protection[海洋生物保護]」シリーズを開始しました。海洋生物を有色のモチーフにしているこのシリーズはベストセラーだけでなく、貨幣学の世界において最も長い間発行され続けてきた記念貨シリーズとなりました。
今日ではカラー着色は記念貨鋳造において最も使われている技術の一つです。色付けには、目指す色落ちしない期間によって複数の方法が開発されています。さらに詳しい説明は、2018年の下記の英語の記事にも記載されています。
カラーは、遊べるものです。それで近年では、いわゆる「グロー・イン・ザ・ダーク・エフェクト」コイン、すなわち日光がある時と暗闇の時に異なるモチーフを表示しているコインが発達してきています。
しかし、カラーで注意した方が良いことが一点あります。すなわち、カラーが記念貨の一部であるか、それとも2ユーロ硬貨でよくあるように実は無色のコインに鋳造後に塗られたかです。色塗りは魅力的でそのコインを収集する価値があるかもしれませんが、色が塗られた時点で当該コインは定義上通貨として使用できなくなるのです。
3.2. エナメル塗料
金属への色付けとしてパッド印刷よりずっと古いのは、エナメル塗料です。この技術は勲章にその豪華な色を与えるのに過去二世紀にわたって使われていました。エナメル塗りによって得られる色は表面構造が異なるゆえより一層輝かしいですが、その製造はより大きい費用を伴います。この技術が近年、記念貨の鋳造において後退しており、特別な機会においてのみ使用されている一つの要因として、これがあるでしょう。
3.3 緑青付け(Patinating)
極めて古い技術であるにもかかわらず今日でもコインに特別な雰囲気を与えるのに非常に有用なのは、緑青付けです。それは、未使用品品質金属に違う灰色の度合いを与えるために表面の科学的な加工のことなのです。
3.4他の金属による部分的または全体的な精錬
コインの全体的な金メッキの被覆は簡単である一方、部分的な被覆は極めて難易度の高い作業です。金メッキに覆われる面が小さければ小さいほど、困難になります。最適なコインを得るには、金メッキは精密にかけられなければいけません。
3.5 インレー (Inlays)
Coin Invest TrustによってTiffanyシリーズの最初のコインが発行された当時は、コインにガラスの破片を嵌め込むことは前代未聞のことでした。スワロフスキーの石、香辛料の入れられたカプセル、宝石、クローバーの葉や他に様々なものは以前もコインに嵌め込まれたことはあったものの、金属の一部分を違う素材に取り替えることは当時も現在も技術的に極めて難しいことです。
3.6. ホログラム
ホログラムは主に紙幣の印刷において知られていますが、創意に富むコイン技師はそれらをコインにも当てはめました。その謎はコインとホログラムの分けられた製造にあり、ホログラムはいわばコインに貼り付けられるのです。
もちろん、上記のそれぞれの技術はすべて組み合わせられることもしばしばあります。例えば、高浮き彫りにインレーが嵌め込まれた上で緑青付けられたカラー着色硬貨に金メッキがかけられた例もあります。これらの芸術作品は、トグルプレスで大量に製造されるものと一切関係がありません。
19世紀ではこのような入念さはメダルの製造にしかされませんでした。しかし、メダルが今日では、残念なことに不評を買っていますので、「Non Circulating Legal Tender[非循環の法貨]」コイン、つまり額面上の価値があるものの発行された国では通貨として流通してはいけないコインがその場を引き受けています。
現代コイン鋳造技術の世界に浸す人は、現代世界の最も重要なものを反映している、流通はできないものの芸術品であるこれらのコインを高く評価するでしょう。
Cosmos of Collectiblesデータベースではどの特殊な技術でも検索ができます。